庄司紗矢香 ヴァイオリン・リサイタル
2009年1月7日(水)19時。前橋市民文化会館。
今はときめく庄司紗矢香のヴァイオリン演奏会を聴いた。
庄司の群馬県内における単独リサイタルは初。
演奏機会としては、一昨年六月のローマ・サンタ・チェチリア響公演でのソリスト以来。
記録がすぐに見つからなかったが、確か、7~8年前の庄司が10代の頃には群響とも共演しているはずだ。
前日6日は沖縄、翌日8日は北海道での公演という、日本を縦断するスケジュールにおいて、
中間地点のリサイタルの地として前橋が選ばれたということは、なんという僥倖だろう。
ただ、客入りは6割程度。かなり空席が目立った印象は否めない。
プログラムは次の通り
○シューベルト:ヴァイオリン・ソナティナ第3番ト短調 Op.137-3 D.408
○ブロッホ:ヴァイオリン・ソナタ第1番
○メシアン:主題と変奏(ヴァイオリンとピアノのための)
○ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 Op.100
開演は6分押し。
客電が暗転し、ショッキング・ピンク単色のワンピースを身にまとった庄司が、
イタマール・ゴランというリトアニア生まれの大柄なイスラエル人を伴い下手から現れると、
静かながらも、期待度の決して低くない拍手が広がり、二人を迎えた。
一曲目のシューベルトは、親しみやすい旋律を、ピアノとのユニゾンによる主題が奏でられる。
古典的な形式美の中に、至る所にロマン派の先駆者シューベルトの楽想が散りばめられ、
庄司の華奢な身体から紡ぎ出される、光り輝く音楽には言葉を失うしかないだろう。
当初、ピアニストと息の合わない場面が一度か二度あり、
庄司がわざわざ一歩ピアノ側に踏み出していって、タイミングをはかることで、
どうにか演奏を取り繕った場面には、ハラハラさせられた。
(とはいえ、我々素人が日頃経験するような破綻とは全く違う次元でのことだが)
二曲目のブロッホ。(ブロッホは、今年没後50年)
1920年の作品だから、第一次世界大戦直後の頃か。
当時の世相を反映するような、激しく烈々たる第一主題を持つ。
パンフでは「闘争的」と解説されていたが、庄司の繰り出す音楽はどちらかといえば激情的だ。
曲はフィナーレに向かって、何度も起伏を繰り返しながらも、しかし静かな終焉を迎える。
けたたましい雷雨で波立つ高原の湖の情景で幕が上がる・・・
湖畔の泥濘や雨しぶき、嵐に荒々しく揺り動かされる木立ちのざわめき。
庄司の集中度の高い演奏は、そんなイメージを与えてくれる。
やがて、ゆっくりと湖は乳白色の霧に覆われ、神秘的な静謐さを取り戻してゆくのである。
20分のインタミの後、三曲目はメシアンによる10分程度の小作品。
一つの主題を五つの変奏で聴かせる同曲。
徐々に熱を帯びてゆく曲調と、時折見せる遊び心に、自然に引き込まれるなかなかの佳曲。
メインは、ブラームス。(もしかしたら、ブロッホがメインでしたかね?)
最終ステージでこういう美しい抒情溢れる作品に接すると正直ホッとする。
やはり、二曲目三曲目と、時に手に汗握る緊張感たっぷりの演奏であったので、余計にそう感じるのか。
(演奏者側に、この四曲目における緊張感が欠けていたという意味ではなく)
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタではピアノよりヴァイオリンを明らかに主役として取り扱うが、
新古典派の重鎮ブラームス…冒頭からピアノが主として主題を導くことが多かった。
これも、古典回帰の象徴なのだろうか。
しかし、このゴランというピアニスト。
私がそう感じただけかも知れないが、ピアノをガンガン叩きすぎじゃなかったか。
シューベルトの時には音量が終始大きく、耳をふさごうと思った時があったくらいだ。(ああいう曲なん?)
でも、二曲目三曲目では、ゴランの弾き方は、激しい曲調ながらもヴァイオリンへの追従を忘れず、
テクニックも一流でありながら、随所では抑制の効いた弾きっぷりで、むしろ好セッション。
しかし、ブラームスでは予想通り、音色が修正されず。
何というか、強いというか、濃いというか、コクがあり過ぎるというか、弾き過ぎというか…。
それともホールが響き過ぎなのか。(笑)
二曲のアンコール演奏を経て21時05分終演。
楽章間で拍手が起きたり、演奏中パンフに挟まるちらしを落としたり、例によってコンビニ袋(?)をまさぐる客がいたり…、
相変わらず、私とはクラシック演奏に対する価値観の違う人達が相変わらず散見されたのは、残念。
それは、ここが群馬だからか?
(私の経験上、東京ではめったにないから、そう言わせていただいているのだが)
ともあれ、溜息の出る瞬間を何度となく味わえた本リサイタル。
久しぶりに温かい気持ちを抱いて家路についた。
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